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横浜地方裁判所 昭和38年(ワ)305号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕そこで、本件事故((編注・その発生の日は、昭和三六年四月二八日))により原告の蒙つた損害につき判断する。

(一) 治療費、通院交通費、栄養剤費について、

((証拠))によると、原告は前記傷((編注、骨盤骨折・左大腿部擦過傷・下復部轢創・尿道断裂の重傷))を治療するため、横浜市立大学病院へ通院しているところ、昭和三七年五月一日以降昭和四〇年一月末日までの間、同病院に治療費として金五万六六五六円、右期間中肩書住所の自宅から同病院へ通院するための交通費として金九〇〇円、右期間中血行をよくし受傷を回復させる栄養剤ユベラを服用するため購入した代金として金二万七〇〇〇円合計金八万四五五六円を出捐したことが認められるから、右金額は本件事故によつて原告の蒙つた損害である。

(二) 休職中の滅収賃金について、

((証拠))を綜合すると、原告は本件事故当時在日米海軍横浜居住施設工作局運輸部に重量装置運転手として勤務し、事故直前三ケ月間の平均月収に金二万五五〇〇円を下廻ることがなかつたが、本件事故のため昭和三六年四月二九日から三ケ月間休職処分を受け、休職中の賃金は月額金二万二一三〇円となり、本件事故が発生しなければ右休職期間中稼働して得られた賃金計一万一一〇円以上を逸失したことが認められるから、原告の請求する右金額をもつて、休職により原告の蒙つた損害というべきである。

(三) 労働能力喪失及び低下による損害について、

((証拠))を綜合すると、原告は本件事故当時満二六歳の普通健康体を有する男子であつたところ、事故により即日横浜市中区所在本牧病院に入院し、同病院において内臓の損傷、骨盤の骨折、尿道断裂、膀胱損傷のため五回に亘る開腹手術、整形手術を受け、同年八月三〇日同病院から横浜市立大学病院へ転入院し、更に同病院において同年九月一一日尿瘻切除、尿道断端を膀胱側に牽引固定する手術並びに各種の治療を受け、同年一〇月二八日退院して以後は、尿道狭窄を予防するため通院加療し、現在では毎月一回同病院に通院し治療を受けているが、今後なお相当期間の通院が必要で、特に尿道狭窄検査は半年に一回程度の割合で一生継続しなければならないこと、本件事故により第四腰椎部に圧迫骨折を生じ、これが治癒は不能であり、そのため偶々神経痛症状を呈し、又尿道の傷害により排尿時に出血を伴い排尿感覚が麻痺し、而も将来正常な結婚生活を送ることが危惧される状態にあること、原告は本件事故後昭和三八年頃まで肉体的労働に従事し得なかつたところ、受傷が回復するに伴い昭和三九年一月中旬頃タクシー運転手となり同年二月中旬まで稼働していたが、運転業務に従事中しばしば前記受傷に基因する腰痛を感じ、健康なタクシー運転手ならば一ケ月二三日間勤務するのに、一〇日しか勤務できず、右退職後は原告の弟が営んでいる土建業務中電話の取次等軽労働に類する仕事を手伝つていること、以上の事実を認めることができ、他にこの認定を左右する証拠はない。

右認定事実からすれば、原告は本件事故後昭和三八年末頃までの間、労働能力を殆ど喪失したと解せられ、昭和三九年以降は平均して、普通健康体を有する男子の三分の一の労働能力を、喪失したものと解するのが相当である。

ところで、原告が前記在日米海軍に勤務中の本件事故当時、毎月平均二万五五〇〇円を下廻らない賃金を得ていたことは前示認定のとおりであり、((証拠))によれば、原告は前記勤務先で稼働中、毎年少くとも三ケ月分の賃金相当額の賞与を得ていたこと、原告は昭和三六年七月二九日右勤務先を解雇されたこと、右勤務先は満六二歳をもつて停年退職としており、原告において本件事故がなければ、なお停年時まで従前どおりの収入を下らずに勤務することが可能であることが認められる。

そうすると原告は右可能期間中、毎年前記平均賃金の一五ケ月分即ち金三八万二五〇〇円を下らない得べかりし収入があると推認するのが相当であるから、(1)前記解雇時から昭和三八年末までは右得べかりし年収入の割合による全額金九二万八四七九円(解雇時から昭和三六年末までは右年収入の日割計算により、昭和三七年から昭和三八年末までは右年収入の二ケ年分、但し円未満切捨)、(2)昭和三九年以降原告の求めている満五五歳、即ち昭和六四年末までは右年収入の三分の一の額に二五年を乗じた金三一八万七五〇〇円が、原告の得べかりし利益となる。而して原告は、右各金額のうち毎月金七、〇〇〇円宛即ち年額金八万四〇〇〇円の割合による金員を自ら控除して請求しているので、右(1)の金額からこの割合による金員を差引くと金七二万四五七八円、(2)の金額から同様に差引くと金二四八万七五〇〇円が、原告の請求する得べかりし利益となる。従つてこの各金額から、ホフマン式計算法により一年分毎に逐一民法所定年五分の割合による中間利息を控除し、本件事故当時における一時払額に換算(この計算は「不法行為に関する下級裁判所民事裁判例集第二号下(昭和三二年度)の末尾添付数値表による)すると、労働能力喪失による損害は金六三万二七六八円、同低下による損害は金一四四万一七六六円(但しいずれも円未満切捨)となる。

ところで原告は、労働能力喪失による損害として金一一九万四〇〇〇円、同じく低下による損害として金一六二万八一八二円を請求しているが、これは本件事故によつて労働能力が滅少したことによる損害、換言すれば、消極的損害という同一損害類型中の細分に過ぎないと解されるから、細分類の合算額が原告の請求額であつて、前記認定にかかる各損害の合計預金二〇七万四五三四円をもつて、労働能力喪失及び低下により原告の受けた損害というべきである。

(四) 慰藉料について

前段認定のとおり、原告は本件事故による受傷のため、甚大な精神的苦痛を受けたのであるから、諸般の事情を考慮し、右精神的苦痛に対する慰藉料は金五〇万円をもつて相当と解する。

三、次に先ず被告の主張する消滅時効について審究する。

原告が昭和三八年四月二〇日付本訴提起の際、本件事故による損害として(1)治療費等については昭和三七年四月以降本訴提起時までの内金三万九六九〇円、(2)(イ)労働能力喪失による損害金一一九万四九〇〇円については内金一〇〇万円、(ロ)同低下による損害金一六五万円については内金五〇万円、(3)慰藉料金一〇〇万円については内金五〇万円をそれぞれ請求していたこと、ところが昭和四〇年三月一五日付請求拡張の申立によつて、更に右につき本訴提起時以降昭和四〇年一月末日までの治療費金五一七〇円、(2)(イ)につき残額金一九万四九〇〇円、(ロ)につき残額金一一五万円、(3)につき残額金五〇万円を各追加して請求を拡張したこと、そして最後に昭和四一年二月一六日付訴状訂正申立によつて、原告の請求するとおりの各金額となつたことは、すべて弁論の全趣旨により明らかである。

そうすると原告の当初の前示各請求は、すべて明らかに各損害金の内金即ち一部請求というべきであるところ、((証拠))によれば、被告者たる原告が本件事故の発生並びに加害者である訴外小林の運転する本件車輛の保有者が被告会社であり、被告会社が本件事故の責任を負うべきことを知つたのは、本件事故当日であると認めることができる。

而して、原告が本訴で請求している損害は、通常、本件事故の如き事故の発生に伴うもので、事故発生時には損害の具体的な数額を確定し得ないにせよ、抽象的にみれば損害自体は発生したといえるから、原告は本件事故の発生を知つたことによつて、そのときから損害の発生を知り同時に時効期間も進行するといわねばならない。従つて斯る損害全額について、訴提起による時効中断の効力を得るには、訴提起の際一部請求ではないと認めるに足りる程度の記載をなすことが必要であつて、明らかに一部請求であると認められる場合は、当該請求額のみに時効中断の効力を生じ、残額には及ばないと解するのが相当である。さすれば原告の本件事故による損害賠償請求中、訴提起による時効中断の効力が認められるのは、当初の請求部分に限られるから、本件事故当日から三年を経た昭和三九年四月二八日の経過により、請求拡張部分については時効が完成し、既にその請求権は消滅しているといわねばならない。もつとも、原告の請求拡張部分中治療費については、右の時効完成以後のものもあることが明らかであり、更に原告の精神的苦痛が慰藉料を支払われないことによつてなお継続していることは推認するに難くないが、治療費は通常、受傷により予見することが可能であり、精神的苦痛も特段の事由のない限り、受傷のときに予見し得るものであるから、いずれも原告が前示損害の発生を知つたときより、時効期間が進行する。

よつて、前記原告の請求の拡張申立並びに訴状訂正の申立による拡張部分は、最早時効完成により消滅しているから、前項認定にかかる原告の各損害は、いずれも当初の請求数額と同額となり、この限度で被告の支払義務を検討することとなる。(石橋三二 土井博子 斉藤祐三)

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